東京高等裁判所 昭和29年(ツ)18号 判決
上告人 堀口龍太郎
被上告人 春日神社
〔抄 録〕
原審は証拠によつて、上告人家の戸主は代々被上告神社或はその前身である太田本郷鎮守の神職或は別当職であつて、右神社或は鎮守のために本件土地を占有し来たり、上告人の代に至つたことを認定し、右認定が適法であることは、上告理由第一点について説明したとおりである。したがつて、原審が、上告人家の戸主が代々本件土地を占有し来たつたのは、権原の性質上、所有の意思のない占有であると判示し、また相続による占有の取得は新権原による占有ではないから、上告人の本件土地に対する占有もまた所有の意思のない占有であると判示したのは、もとより正当であつて、なんら違法な点はない。このことは本件土地がいわゆる被上告神社の境内地ではなく、その地上に上告人家累代の住宅、墓地があり、また上告人所有の貸家があり、後にこれを病院として利用したことがあつたとしても、その占有の意思が上記のように右神社或は鎮守のためのものである以上、右の一事によつて所有の意思ある占有をなし来つたものとは認めることができないし、また自己に占有をなさしめた者に対し、所有の意思あることを表示し、又は新権原によつて更に所有の意思で占有を初めたものということができないことはいうまでもないから、原判決にはなんら所論のような違法な点はなく、論旨は結局、上告人の独自の見解を以て、原審が適法になした事実認定及びこれに基く法律上の判断を非難するに過ぎないものであつて、これまた採用するに由ない。
しかし、被上告神社が所論のとおり宗教法人令により宗教法人となり、また宗教法人法による宗教法人になつたとしても被上告神社は、原判決の認定のとおり太田本郷鎮守と称した昔から、社会的には法人格を有すると同様の存在と社会的活動をなしていたので、宗教法人令又は宗教法人法によつて法人格を得た後も、その同一性にはなんら変化はないものである。
法人である神社とその機関である神職にある者との関係は、別段の事由がない限り、民法の委任の規定によるべきことはいうまでもないのみならず、被上告人神社と上告人との所論関係が法令の規定によるものであると、両者間の委任契約によるものとのいずれにせよ、この点においては、通常の場合効果は同一であると解するを相当とする。